元自にーさん(元自衛官)の自衛隊ブログ

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航空機事故:元陸上自衛隊・航空学校教官に解説してもらいました

      2016/12/12

元航空学校教官・ヘリパイが自衛隊在職中に起きた航空事故を振り返ってどのようなものだったかをご紹介していきます。

 



隠岐の島事故

2004年隠岐の島に編隊で着陸しようとした自衛隊ヘリが山中の立ち木に接触して大破する事故がありました。離陸前の気象情報より現地は更に悪化していて無理に着陸を試みたようです。

海沿いの地域は風の向きなどで急に天気が変わります。陸地側の暖かく湿った空気が海岸に流れると海岸線から海側に海霧性の霧が急に広がるのです。

海霧が出たらその上は飛行できる可能性がありますが海霧の中は飛行できません。

隠岐の島は離島ですのでここまで来たら引き返せないと考えたと思いますが、天候が悪化した場合は潔く任務を中断し帰投する勇気も必要です。



八尾飛行場ホバリング事故

2010年大阪八尾の空港内で試験飛行中の自衛隊ヘリが横転する事故がありました。

ホバリング中に副操縦士が誤って油圧系統のスイッチを操作したことが原因でした。

UH1J型ヘリでは油圧系統のスイッチは初期のヘリには2系統が別々に操作できるようにしてありましたが、同時に2系統をOFFにできることが危険なため現在では1系統か2系統かを選択できるスイッチに改修され同時にはOFFにできなくなりました。

しかしUH1H型ヘリは油圧系統が1系統しかないためONかOFFなのです。このため、UH1Hに乗って試験飛行をしているのにUH1Jのつもりで油圧系統のスイッチを操作してしまうとOFFにしてしまう訳です。

油圧系統をOFFにしたとたんに操縦桿もピッチレバーもラダーまでもが固着しますのですぐにONにしないとひっくり返ってしまうのです。あれから6年経ちましたが機長はとても優秀な隊員でしたので事故から立ち直り元気に飛んでいると思います。



試験飛行中の事故として印象に残っている事故

2000年11月に三重県鈴鹿市の試験飛行空域で試験飛行中のヘリMH2000のテールローター部が破断して急激な右旋回となり墜落し機長が死亡、搭乗者5名が重傷を負いました。

ヘリはエンジンによりメインローターを回転させていますが、ローターの回転方向の反対に回ろうとする反トルクをテールローターで打ち消しています。このためテールローターがなくなると途端に右旋転をするのです。フランス製のヘリのようにローターの回転が西側諸国製と逆の場合は左旋転です。

右旋転を止めるためには速度をつけてウエザーベーニングと言われる風見鶏の効果を得たまま滑走着陸するかオートローテーション降下によりエンジンパワーを使わないで着陸する方法です。

MH2000は比較的大きな機体ですので反トルクも大きかったと思います。機長は亡くなりましたが、他の搭乗者は重傷ながら生存しました。

着陸時には少しでも反トルクによる旋転を少なくするためエンジン出力を絞ることで生じる機首下がりを操縦桿で手前に支えていたと思います。

機長は最後まで操縦をあきらめず墜落した時は操縦桿が胸に突き刺さっていたそうです。

埼玉県消防防災ヘリ墜落

2010年7月秩父の滝つぼに女性が滑落したとの情報を受けて埼玉県消防防災ヘリが救助に向かいました。

一度現地に到着しましたが安全に救助できるポイントが見つからなかったため、現地をよく知る特別救助隊員を乗せて再度現地に向かいホイストで救助を行いました。

事故の原因は天候不良やウインドシェアによるセットリングによるものとの報道がされましたが、現地の天候は良かったとの証言もあったことから原因を追及されホイストの最大が90mのところ60mを超えたためホバリング高度を下げたため周辺の樹木にテールが接触して墜落したと訂正されました。

狭隘地のホバリング地点に進入する時は、周辺の樹木や障害物の確認をした後にホバリングに移行します。

一度ホバリングを開始すると周辺の障害物との間隔などは見えなくなりますので、ヘリパイは自分の正面にある樹木などを参考にホバリングしますので高度が高すぎるからといって安易に下げることはできません。

ホバリングに移行する時に見た安全な位置と高度ではないところに降下するからです。

この場合、一度離陸して再度進入し低い高度まで下がることができるのかローターやテールの位置など大丈夫なのかを確認すべきです。

私はかなり狭小な場所にも数多く着陸しましたが、スキッドをどこに接地させるか、ローターと障害物とのクリアランスはどのくらいあるのか、テールローターの位置はどこかなど、細かく確認し目で見ながら少しずつ降下していました。

覆いかぶさるようなアプローチを好むヘリパイもいますが安全が確認できないと思います。

埼玉県消防防災ヘリはドクターヘリとしての運用にも期待されているようですので事故現場付近の空き地や道路にも着陸することがあると思います。

事故の教訓を活かし、しっかりヘリパイ自身が目で見て安全を確保してもらいたいと思います。

海上保安庁ヘリ墜落

2010年8月に第6管区海上保安本部広島基地のベル412「あきづる」が飛行中、瀬戸内海の佐柳島と小島の間に張られた送電線に引っかかり墜落しました。

目撃証言では、送電線の近くで上昇しようとしたところ突然逆さまにひっくり返り墜落したようです。

「あきづる」は海上パトロールの合間に、香川沖を航行中の司法修習生の船舶に飛行展示をしたことが本来の任務ではなかったようでマスコミに批判されました。

ヘリパイは華々しい飛行を見せたいと考えることが事故の引き金になっていることが往々にしてあります。

「あきづる」も司法修習生に対するサービスとして飛行展示をしたと考えられますが、どこでどういう飛行展示をするか事前に考えておくことが重要です。

どこでと考えたとき、海上保安庁なら送電線の位置を知っているでしょうし、機長が知らなくても飛行計画を練る段階で指導・助言を受けることになり危険な空域を避けることができたと考えます。

「あきづる」は展示飛行を行う空域に到達したなら障害物や風向風速の確認などしたのでしょうか。

事故が起きてからでは後の祭りですがこれからも飛行展示などはあることですので、この事故を教訓に「そんなことはしない」ではなく、事前の計画、実施前の周辺空域とヘリの状態の確認などしっかりやって安全なデモフライトをしてほしいと思います。

静岡消防ヘリ山岳救助中に人員落下

2013年12月富士山頂付近で男女4人が滑落し、静岡消防ヘリが救助に向かいました。

男性を吊り上げてヘリに収容する直前に救命器具が外れ、男性は約3mの高さから転落しましたが、その後天候悪化により救助を断念し、翌日心肺停止の状態で死亡が確認されたものです。

静岡消防ヘリは3000mの訓練はしていたが3200mは初めての救助であったことから、事故の検証を踏まえ今後は3200m以上の救助はしないと発表しました。

この事故の問題は救命器具が外れたことです。自衛隊が救助する場合は、そのような事故を防ぐため救助員を一緒に吊り上げます。

そのため救命器具は2つ吊り下げて、まず救助員が一人で降下し、患者に救命器具を装着させ、吊り上げ時はお互い抱きついて吊り上げます。機内に収容する時は患者を押し込み救助員が機内に入るのが一般的です。

静岡消防ヘリは救助の要領を変えないと3000m以下の救助でも同じような事故を起こす可能性があります。

確かに3200mはヘリのホバリング限界高度に近いですのでヘリで救助するのは危険ですが滑落した患者を助けられるのはヘリしかありません。

航空機の重量や密度高度、エンジン使用可能トルク、風向風速などを計算するとできない場合もあるでしょう。しかしできるときにしないのは消防ヘリとしては任務放棄です。

本事故を教訓に「救助しない」ではなく「絶対に患者さんを落とさない」救助をして欲しいと思います。

オリンピック選手を乗せたヘリの衝突

2015年3月アルゼンチンでフランスのテレビ番組に出演するために分乗していたヘリが空中衝突し、オリンピック選手ら10人が死亡する事故がありました。

番組はスポーツ選手がヘリコプターで大自然の中を移動し、食料も地図も持たず町に戻るまでのドキュメントを収録するものでした。

フランスのメディアは「どちらかのヘリが急に方向を変えたことが原因」と報道しました。自衛隊では2機以上が行動する場合は編隊と言います。

各機の間隔は10m以内で行動する場合もありりますのでとても近いのですが、そのために事前の打ち合わせを行い、エンジン始動の時期、離陸要領、方向を変える場合の合図、飛行経路などについて徹底します。

編隊長を長機、後ろからの追随機を僚機と言いますが、長機は僚機を考慮した操作が必要です。急に操作すると僚機が追随できませんので操作の初めはじわっと操作し僚機に意思を伝えるのです。

その後に幾分急な操作になっても僚機は追随できます。今回の事故は離陸直後に発生したようですが、離陸時はヘリが一番不安定な時期でもありますので、長機は僚機を考慮して容易に追随できる操作をしなければなりません。

この事故でもう1つの問題は1名操縦だったことです。

たくさんの人を乗せて離陸する時は、トルクや排気温度が許容内なのか回転が低下していないかなど計器を見る必要があります。

自衛隊では副操縦士が計器を読み上げ機長を補佐します。機長は機外を見て操縦に専念します。

1人操縦では機外から目を離して計器を見ることになるので編隊の時は特に衝突する可能性があり危険なのです。自衛隊でも過去に空中機動中に地上で移動する時に急に前方機が停止したため追突する事故がありました。アルゼンチンの事故と同様の状況だったと思います。

海上自衛隊教育ヘリ墜落

2015年2月に鹿屋基地から飛び立ったOH6型教育ヘリがえびの市に墜落し教官学生が死亡しました。天候が悪い中での帰投中の事故でした。

飛行経路を変更したとの情報もありました。教官としても何とか飛行できる経路を探しながらの飛行を続けていたものと思います。

しかし山中の天候はそんなに甘くありません。地上まで全く見えなくなることも往々にしてあります。どうするのか、そんな状況まで飛行しないことです。

「そんなこといっても結果論でしょう」とお考えの方もおられるでしょうが、ヘリパイは天気が悪くなってきたらいつでも引き返せるように後ろを見ながら飛行します。

振り返りながら飛行という意味ではなくいつでも引き返せる経路を確保しておくという意味です。雲の下がだめなら雲の上はどうか、海岸線はというようにいつも情報を把握し、こっちがだめならこっちというようないくつかのルートの腹案を持って飛行します。

最悪なら鹿屋レーダーに引っ張ってもらうこともできたはずです。引っ張るというのはレーダー誘導の事です。AIPで確認しましたが鹿屋レーダーはGCAもあるようですので着陸まで誘導できる施設があります。

有視界飛行方式で飛行しているのにGCA誘導はリクエストできないとお考えの方もいらっしゃると思いますが、雲中に入ってしまっているのにレーダー誘導を受けるのをためらうようでは教官として失格です。

雲中を飛行していること自体が航空法に抵触するわけです。「リクエストGCAアプローチ」を要求するとレーダーは訓練ですかアクチュアルですかと聞いてきます。

有視界飛行方式での訓練ですか本当の計器気象状態で飛行するのですかという意味です。「アクチュアルGCA」を要求して着陸すれば事無きを得たはずです。

更に最悪なら予防着陸という手があります。私は大分の演習場付近を飛行中、天候が悪化してこれ以上の飛行は無理と判断し、近くの空き地に着陸し連絡が取れるところまで歩いて行きました。

同乗者が9名いましたので、一緒に歩いて行く人いるか聞いたところ誰も返事をしませんでしたので、「ヘリの中で休んでいて」とだけ言い残して私だけ歩いて行きました。

何という機長だろうと思った同乗者もいたかもしれませんがヘリですからそんなことだってできるのです。

勝手に空き地に着陸することはできませんが地主の許可を受ければ場外離着陸場の事後承諾を頂くことができます。事故を考えれば何でもないことです。

ライター:元航空学校教官

 - ヘリパイ




kotirade

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