元自にーさん(元自衛官)の自衛隊ブログ

新隊員、自衛隊や自衛官に興味がある人に自衛隊について色々と学んでもらえるようなブログを目指しています。

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入校発令は突然に~准看護士資格を蹴った海上自衛官の話~

      2016/12/13

自衛隊で業務を続けていくにはそれぞれの配置の特殊技能を身につけなければいけないために、術科学校という一般社会で言うなら「専門学校」に入校し、職種によっては国家ライセンスの取得、不要なら配属部署で行う業務について卓越した技術と知識を習得する必要があります。

その教育機関を修了すると「マーク」というものが付与され専属隊員として人事ファイルに登録されます。

しかし、その術科学校に行くためには入隊のタイミングと順番待ちという大きな壁が立ちはだかり時折希望に満ちて入隊してきた隊員の心を折る要因となっています。

私の知る限りでは高校を卒業して入隊、現在28歳(当時)でまだ学校へ行けず初任海士が入校の辞令を受けるまで配属される基地警備を主業務とする警衛隊警衛斑で、じっと入校の辞令を待っている古参の海士長がいました。

ちなみにその方は「写真」というマークを希望されていて、これは運航隊に属するのですが、空撮を行ったり、行事があれば記念写真を撮ったりと、当時はデジカメなんてない時代でしたので今とは違った技術を要する部署であり、配置的に人員がそんなに必要とされない部署でもあったため、当然入校が頻繁にあるわけでもないので(入校枠がない年度もあるらしいです)ただひたすら「待ちの姿勢」でいなければなりません。

私は航空管制官の学校へ入校するためにその警衛隊で1年半待ちました。私が初任海士として配属された年の11月(航空管制官の入校は毎年11月のみでした)に、先輩が1名航空管制官の学校への入校辞令が来た際に、もう1名枠があるような話を耳にしたのですが、当時の「最低1年は下積みをしてからでないと入校はさせない」という悪しき習慣から私の入校は流れたと後に親しい上司から聞かされました。

その話を聞かされたのは学校での教育期間が修了してライセンスを取得した後でしたからそこまでショックはありませんでしたが、多少の憤りは感じた記憶があります。

現に私が海士長に昇進した年の11月に入校辞令が発令されて術科学校へ入校した際にその年の春に自衛隊に入隊した2等海士が16名中6名もいましたから、どんだけ偏った人事をしているのか疑念を抱いたばかりか、あろうことか私と同じ部署に所属する1等海士まで入校すると聞いた時は愕然としました。

確かに彼は1年2ヶ月ほど警衛隊にいましたので「悪しき習慣」はクリアしていましたが、これも入隊時期のタイミングなのでしょうね。

どんな職種でもそうですがワンランク上にいくために、そして長く自衛隊で勤務するためにはこの術科学校への入校というのが最重要ポイントであることは否めません。

そんな状況の中、私の後輩の中で一人完全に運に見放されたというか絶好のタイミングを逸して自衛隊生活を古参海士長として送ることになった人物がいますので、今回はその壮絶、いや単にドタバタしただけかもしれませんがエピソードをご紹介しましょう。

彼は高校卒業後すぐに自衛隊に入隊したいわゆる「春っ子」として9月初旬(時期は定かではないのですが)に警衛隊警衛斑に配属されてきました。

春っ子の特徴としては高校卒業後すぐに柵の中に入るため、自衛隊に洗脳されやすいタイプと何かにつけ反発したがるタイプの大きく分けてこの二つに分類されます。

共通して言えるのはどちらも社会人1年生なので一般社会でのルールをよく理解していないということです。

教育隊などでは自分の給料も班長に管理されお小遣い制度だったのが、毎月決まった日に銀行に振り込まれキャッシュカード一枚で好きなように使えるようになり、箍(たが)が外れてしまう者も多く見てきましたが、御多分に洩れずその彼も後者で外出日にはとにかく街へ繰り出すタイプでした。



班長の定年退職祝い

ある日、その日は班長の定年退職祝いということで当直員以外は全員参加の送別会が行われる予定でした。

開始は当然業務時間終了後、街の飲み屋の座敷を借り切って警衛隊以外にも縁のある隊員が出席して盛り上がる予定でしたがしかし、ここで大事件が勃発してしまいました。

先ほど紹介した春っ子の後輩にいきなり入校辞令が発令されたのです。しかも職種は「衛生」と言って、入校すれば准看護師のライセンスは取得出来、希望すれば臨床検査技師のコースへも進め、防衛医大に進む道もあるのですから言い方を変えれば自衛隊を辞めても食うに困らない職種です。(中途退職の際の返納義務もありません)

私も航空管制官の学校への入校待ちの間に衛生隊の方から何度か思い直すように説得された事があります。

この職種の学校もある意味「狭き門」として有名ですから、希望していた彼にとっては思いがけない幸運が天から舞い降りてきたようなものです。

ただ人事発令があった際には必ず本人の意志確認を取ることになっていたのですが、肝心の彼が朝から外出して夕方から始まる送別会に直行するようなことを言っていたのです。

しかし、発令があったからにはその日の16時30分までには本人の意志確認後、班長から人事へ返事をしなければいけません。

班長は焦っていました「あいつを探せ」と当直員以外の者は「特外」という「特別外出」を申請し街に出て一斉に彼の捜索を命じました。

今の時代であれば携帯で「帰隊せよ」の一発で終わるのですがそんな物もない時代ですから、足で探すしかありません。安っぽい刑事ドラマみたいに彼が立ち回りそうなパチンコ屋からゲームセンター、一駅先まで足を伸ばしても見つかりません。そうこうしているうちに彼が一度外出から戻ってきたのです。

周囲は安堵の空気に包まれる中、彼は班長から入校辞令が発令された事を告げられます。

しかしこのあと信じられない言葉が彼の口から出たのです…。

班長「お前、かねてから希望していた衛生の学校への入校辞令が発令されたぞ、おめでとう。」

彼「本当ですか、有難うございます。入校はいつですか?」

班長「明日の22時までに到着すればいいそうだ」

彼「え〜?、明日ですか。それは無理です、お断りします。次回まで待ちます。」

班長をはじめその場にいた全員が一瞬凍りつき、説得を始めましたが彼の気持ちは変わらず、刻々と時間は過ぎ16時に班長はしぶしぶ人事に「本人辞退」を報告していました。

一度発令され「辞退」をすると、希望者は山のようにいるわけですから次の順番は回ってきません。哀れ彼は自分自身で自分の運命を変えることとなり自衛隊でくすぶっていました。

 - 海上自衛隊




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