元自にーさん(元自衛官)の自衛隊ブログ

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オスプレイについて元航空学校教官はどう思う?

      2016/12/12

ニュースでは度々「オスプレイは危険だ」というような報道を見ることがありますが、実際はどうなのでしょうか?

今回は元航空学校教官を務めた元幹部自衛官の方にオスプレイに関して解説をしてもらいました。



オスプレイの歴史

チルトローター機は1940年代からアメリカで始まっていましたが、オスプレイの原型となる本格的な開発は1990年代に入ってからです。

何度かの大きな事故を乗り越えてやっと量産化を実現したものです。当時、写真でしか見た事のないMV-22チルトローター機は翼に大きなプロペラを付けたヘリとも固定翼とも違う新たな航空機の出現として航空学校でも航空技術や航空歴史教育の中で取り上げていました。

オスプレイの事故

開発当時は事故の連発で何度も挫折したようです。中でも1992年にエンジンからのオイル漏れに引火しての火災事故では搭乗者と技術者7名が死亡しました。

エンジンからオイルが漏れたら墜落するのかということですが、オスプレイはエンジンが2基独立しており更にエンジンの1基が停止しても左右のプロペラがシャフトで繋がっているので残りの1基で安全に飛行ができるようになっています。

当時は左右のプロペラをつないでいたシャフトが複合素材であったため強度を失ったものであり改良が加えられました。

2000年に兵員の輸送作戦を訓練中に前方機を避けるために急減速と急降下をしてセットリングに入り墜落し乗員及び兵員合わせて19名が死亡しました。

セットリングとは自分の吹き下ろし風にローターが入り揚力が得られなくなる現象です。セットリングはヘリコプターの飛行特性の一つであり重荷重状態で着陸末期に過大な降下速度でパワーを使用するとセットリングに入るのです。

航空学校の操縦教育でもセットリングを体験させ、その回復法まで教育するのですが、高度に余裕のない着陸末期にセットリングに入ると回復できずに墜落することになります。

2015年にハワイのオワフ島で着陸に失敗したオスプレイもセットリングと考えられています。

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オスプレイは危なくない

事故の原因は油圧系統、プログラムの不具合など機体の不具合に起因する事故もありましたが、現在では改良を加えられ不具合の発生は聞かなくなりました。

最近は航空機の不具合が原因ではなく、操縦の不適切が起因する事故が続いています。特にセットリングや、着艦の失敗など無理な操縦に起因する事故が増えているように思います。

これから自衛隊に導入される機種ですので飛行特性を熟知して如何なる困難な状況の中でも安全を確保し任務を完遂してほしいものです。

飛行特性

回転翼と固定翼の両方の特性を持つオスプレイは飛行特性も複雑になります。

離着陸時の特性はヘリコプターです。左右の翼端にプロペラが付いていますのでタンデムローターのCH47の場合は後方のローターがテールローターの方向舵として機能しますがオスプレイは左右のプロペラの傾きを変えて方向を変えますので、プロペラが上を向いているときの方向のコントロールが難しいと考えられます。

事故事例でも紹介しましたが、低高度でセットリングウィズパワーに入ると、どんなヘリコプターでも回復は困難です。回復するには前進速度をつけて翼端渦から前に脱出するため十分な高度が必要なのです。

オスプレイに限らず着陸末期でセットリングに入ると翼端渦から脱出できる高度の余裕がなく落着してしまいます。ヘリパイはこの特性をよく知っていますので十分な減速とパワー使用でゆっくり着陸します。

オスプレイも同様の操作でセットリングは回避できます。

もうひとつの回復方法はオートローテーション着陸です。オートローテーションに入れると吹き下ろし風を巻き込んで渦を作っていたローターが風を受けて回るようになるのでセットリングから脱出できるのです。

エンジンが1基しかないヘリに乗るヘリパイは、着陸末期はやや深い角度で進入します。

もしエンジンが止まってもオートローテーションで着陸点付近に滑走着陸するためです。

オスプレイが着陸末期にセットリングに入った状態でオートローテーション着陸できるかは疑問です。

オスプレイは固定翼モードからプロペラを上に向けた状態にしてからは、深く入ると降下速度が大きくなりセットリングの危険があるため進入角度は浅く速度はゆっくり進入します。

このため対地高度が不十分となりオートローテーション降下に入る前に地面に激突することが考えられます。このため、着陸末期にセットリングに入らない安全な操縦が求められます。

話は少しそれますが、オスプレイが危険と言われる理由としてオートローテーション着陸が難しいことが話題となりましたが、ほとんどのヘリが2基のエンジンを装備するようになり同時に2基のエンジンが止まることは想定されていないのです。

オスプレイもエンジンが2基あります。プロペラは左右にあり別々のエンジンで駆動しているように見えますが、左右のプロペラはシャフトで繋がっていますので片方のエンジンが故障しても残りのエンジンで安全に飛行できるのです。このためオートローテーション特性は重要ではなくなったのです。

ヘリコプターが高速で飛行できない理由は、前進翼と後退翼があり前進方向に対して後ろ向きに回っている側を後退翼と言いますが、飛行速度が速くなると後退翼が空気の流れの速度に近づくため揚力を発生しません。

後退翼側が失速すると揚力を全く発生しませんので左右の揚力バランスが取れなくなりローターは傾きます。

回転しているものというのはジャイロスコピックプレセッションというコマの原理により、力が加わるとその効果は90度遅れて発生しますので、後退翼失速するとその力が90度遅れてローターが後ろに来たとき効果が出ますのでテール側のブレードがガクッと下がるわけです。

ひどいときはテールコーンを切ってしまいます。オスプレイの最大の特性は固定翼モードで飛行できるため、後退翼の失速がなく高速飛行ができるのです。

オスプレイは故障したらどうなる

オスプレイのプロペラは離着陸時に上を向きましが機械ものですので上を向く機能が故障したらということを考えますと危険が存在します。

そんなことはないと専門家は言われると思いますが、軍用機は降着地が戦闘地域であることも考えられます。

攻撃を受けて故障することもあるのです。プロペラが前を向いたまま故障したらそのまま着陸するしかありませんが、大きなプロペラですので着陸末期に地面に接触して飛散しますのでリスクがあることは間違いありません。



オスプレイは必要か

自衛隊の輸送力としては航空自衛隊の輸送機がありますが飛行場から飛行場の輸送です。人員だけなら陸上自衛隊にもLR2などの連絡偵察機がありますが、数名乗れるだけのビジネス機のようなものです。

兵員を戦闘地域に降着させるのはCH47などの輸送ヘリになります。輸送力はオスプレイよりやや大きいくらいですが、速度は時速200キロ程度と遅く、燃料は最大5時間搭載できますが、たくさん燃料を搭載するとその分人員や装備を運ぶことができなくなります。

その点オスプレイの速度は時速500キロ以上、航続距離は3000km以上ですのでヘリコプターとは段違いです。南北に長く離島を持つ日本の防衛にはまさに最適な能力を持っています。

オスプレイが活躍する場面

熊本地震では米軍のオスプレイが熊本市内から阿蘇までの物資空輸をしましたが、そんな近場の輸送はCH47に任せて、もっと遠くからもっとたくさんの物資や人員が輸送できたと思います。

大阪からはたくさんの支援物資を送るにもトラックでは時間がかかるし道も至る所が通行できない状況ではどうにもならないため送れないと聞きました。北海道からでもオスプレイなら可能なのです。

離島防衛では、何もない時に離島に人員を配置しておくわけにはいきませんので、情報が入ったらいち早く精鋭特殊部隊を送り込むためにオスプレイが活躍します。

敵の戦闘機に撃墜されないよう航空自衛隊の戦闘機の掩護を受けるにも、速度が遅いCH47などのヘリとは比較にならないほど安全に戦闘地域に降着できると思います。

沖縄の離島で患者が発生すると陸上自衛隊のUH60やCH47が患者空輸を行います。夜間でもかなりの天候不良でも患者さんの命を守るため飛行します。

2007年には徳之島に向かったCH47が霧のために着陸できず山中に激突する事故がありました。大ベテラン2名で飛行中の事故でした。

オスプレイが導入されても判断ミスによる事故を防ぐことはできませんが、患者さんの空輸時間が大幅に短縮できることから少しでも早く大病院に送り届けたいという願いはオスプレイで一歩前進すると思います。

アメリカの将来構想にはオスプレイの民間機構想があります。滑走路がいらないのですから飛行場がなくてもヘリポートのようなところから旅客機のように運航できると考えられているのです。

実際は滑走路がないと計器出発方式や計器進入方式が設定できないので旅客機のような運航はできませんが、有視界飛行方式による飛行に限っては夢ではない構想です。

人間の英知が生み出した新しい乗り物としてこれからいろんな場面で活躍してもらいたいと思います。

ライター:元航空学校教官

 - ヘリパイ, 国内外情勢






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