元自にーさん(元自衛官)の自衛隊ブログ

新隊員、自衛隊や自衛官に興味がある人に自衛隊について色々と学んでもらえるようなブログを目指しています。

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ヘリ操縦教育中に操縦学生に期待すること・教育の楽しさ

      2016/12/13

操縦教育が始まるとまず慣熟飛行です。すぐにホバリングはできませんから、まずは空中感覚の感得から始めるのですが、私の時はTH55のドアを外して飛行していましたのでシートベルトが緩みでもしたら空中に飛び出してしまいそうでした。

学生側に旋回するとまるで東京タワーから見下ろしているような状況ですが、あまりに高すぎて恐怖感はありませんでした。教官としては学生が恐怖を感じているのが見たかったのか、恐怖を感じていないことを確認したかったのか、やはり高所恐怖症のヘリパイでは困るかなとは思います。

しかし私自身2階の窓拭きで奥の方を拭きたくて身を乗り出すと言いようのない恐怖を感じることがありますので、窓拭きと飛行は違うと勝手に思い込んではいます。

ホバリングが始まりますと飛行場の芝地で練習するのですが、面白いようにヘリが跳ねまわります。教官は2~3秒も手を離せません。

力の強い学生相手では力負けして墜落しそうになります。ホバリングはそんなに操縦桿を動かすものでなないのです。学生に「手を離して」と言って教官が操縦桿の位置をバネで保持する「トリムスイッチ」を中立に取ると、ヘリはス~ッと安定してホバリングします。

操縦桿から手を離してもほとんど動きません。学生に「操縦桿をそっと握って、もしヘリが動くようだったら動きを止めるようにほんの少し動かして」と言うと、ほとんどの学生はホバリングが止まるようになります。教官のアドバイスを理解できれば操縦は上達するのです。

離着陸や空中操作などの飛行を始めると、速度や高度などの飛行計器を見るようになりますが、学生はそればかりに気を取られて外を見なくなります。

ヘリは姿勢の操縦と言ってちょっとでも傾くと旋回するし、前のめりになれば速度が出て高度が下がります。逆に上向きになると速度が減って高度が上がるのです。

その僅かな姿勢の変化を教えてくれるのが飛行計器なのです。昇降計が上に振れると「ノーズが上がっているよ。高度が上がるよ。速度が減るよ。」などを教えてくれます。

それに気付いてローターディスク面を僅かに下げる操作をするのです。そういうことを考えながら飛行しないとなかなか上達しないのです。

ホバリング、空中操作のことを紹介しましたが、学生には教官のアドバイスを理解して自分の操縦に活かす理解力と細やかな神経を持っていれば、操縦はそう難しいものではないのです。

ここでとんでもないことを告白しますが私は操縦教育中に寝ていました。正確には寝たふりですが。無線を聞き、レーダーで他のトラフィックが無い情報を確認し、飛行の障害物も無い航法教育の時は限定的に寝たふりしました。

学生が2名搭乗していますが、「教官寝ているぞ。お前、右しっかり見てくれ」これまで左に乗っていた後席の学生が教官側の右側に移動し、さらに前席の間に身を乗り出して前を見ているのを感じると、彼らはいいヘリパイに成長するだろうなと嬉しく感じたものでした。

「お、いまどこだ?すまんすまん。おれも昨日勉強しすぎた。」などと言いながら起きたふりして学生が準備してくれた缶コーヒーなど飲むのが至福のひと時でした。学生も教官が遅くまで勉強していることをよく知っているのです。

AH-64D_R



操縦教育の楽しさ

航空学校宇都宮校では、TH-480Bという新練習ヘリに乗ります。私の時代はTH55というピストンエンジンの練習機でした。ピッチレバーにバイクのようなスロットルが付いていてブルンブルンとエンジン回転数を守るのが難しく飛行中は回転計を見通して外を見るのです。

操縦桿、ピッチレバー、ラダー、それにスロットルを操作して飛ぶわけですからガバナーで回転が制御されている今のタービンエンジンよりはるかに難しいのです。

それでもソロフライトがあります。まずは一人でホバリングです。飛行場内をホバリング訓練場まで一人で移動してホバリングして元の場所に戻るのです。

教育が始まって約1ヶ月で航空機を任されるわけですから緊張しますが思い出に残る飛行です。私もTH55でホバリングしたことは鮮明に覚えています。

これが終わって緊急操作の査定に合格すると飛行場で離着陸のソロ飛行があります。離陸して飛行場の周りを回るわけですが、エンジン故障など何か起きたら自分で飛行場に戻って着陸しなければならないのです。

ソロで飛行する前に教官と飛行し、「何かあったらこうして帰って着陸しなさい。」など細かい教育があります。しかし、飛行中は「故障するかも」など考えてはいません。

操縦教育の中でも一人で飛ぶ最高の喜びを味わえるのはこの時です。

その後、航法査定を合格するといよいよ一人で飛行場から離れて近くの町までソロ飛行をします。私は宇都宮から古河付近まで飛行しました。

約1時間、好きな歌を歌いながらの楽しいソロフライトですが、高度計を見るのを忘れてとんでもなく高いところを飛行していたところ、無線で神の声「高度!」振り返ると教官ヘリが近付いてきて教官がニヤッと笑うのです。そんなヘリで三重県明野までの飛行もしました。

西風が強いとなかなか進まないTH55でしたが、魚の骨のような形をした愛嬌のあるとても楽しいヘリでした。

今はエンストロム社のタービンエンジンヘリで練習しますので実用機並みの快適な教育が受けられると思います。

いろいろ紹介しましたので練習ヘリではたくさん飛行するように感じられたと思いますが、練習機教育は100時間程度です。本当にあっという間に過ぎていきます。

壁に当たる時があると思いますが、教官は頑張っているあなたを何とか合格させようと頑張ってくれると思います。必ずできない原因があるはずですので自分だけで悩まず、教官と同期生の力を借りて乗り越えて下さい。

ライター:元航空学校教官

 - ヘリパイ






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