元自にーさん(元自衛官)の自衛隊ブログ

新隊員、自衛隊や自衛官に興味がある人に自衛隊について色々と学んでもらえるようなブログを目指しています。

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災害派遣体験|洪水で沈んだ街

   

23.3.16 高田駐屯地隊員:捜索①

私が初めて自衛隊員として災害派遣に従事した、洪水の災害派遣の体験談。

そろそろ洪水派遣のお話しをしたいと思います。

台風によって洪水が発生し、いざ災害派遣へと向かいますと、大抵の隊員はまず災害現場の光景に唖然としてしまいます。

全てが河に沈んだ街。

普段ならそこに普通に町があり、生活しているだろう人々の生活があった日常が変わってしまった、そんな異様な光景を目の当たりにすれば、誰しもが声を失ってしまいます。

私が最初に見た洪水に沈んだ街も、同じような雰囲気になっていました。

先輩隊員の言っていた言葉にも、

「見たら驚くぞ」

と、現場に向かう前に言っていたのはこう言う事なんだなと、改めて思い知らされました。

街が丸々沈んでいた、その異様な光景は今も覚えています。

台風によって防波堤が崩落し、水流が増した濁流が一斉に街に流れ込み、全てを飲み込んだその光景は、テレビなどで見慣れていた筈ですが、現場に行きこうやって見てみると、改めて違うものだと思い知らされました。

まず洪水で沈んだ街は異様な臭いで包まれています。

その臭いを例えたらヘドロの臭いです。

大雨が降り注いでいる時や河が氾濫し水が流れている時などは臭いはしないですが、洪水が落ち着き、汚染した水が街を沈めている時には独特の匂いがしてきます。

中にはマスクをして作業に当たる隊員がいるくらいに、洪水で沈んだ街の片づけは、臭いとの戦いにもなります。

私が災害派遣へと向かった際、街は雨が落ち着き、流れ込んだ水で満たされていた、そんな時だったので、臭いがおもいっきりに立ち込めていました。

泥の生乾いた、色々なものが混ざっただろう、その独特な臭いはまるで腐臭の様で、ドブの溝洗いの時に嗅いだ臭いとはまるで違う臭さ。

なんでこんなに臭うのだろうと先輩に尋ねてみると、先輩は慣れたように言ってくれました。

「下水の中身も混ざっているから、こんなに臭うんだ」

と、先輩は既に何回も災害派遣に行っていたので、どこか慣れたような感じで任務に当たっていました。

そして現場に到着した最初。私達はまず雨がまたいつか振り落ちるかもしれなとの上官の判断により、ボートを担いで沈んだ街へと入り、行方不明者の捜索任務に当たりました。

洪水で行方不明となる人……つまり遺体捜索です。

中には運良く生きている人も居ますが、急な洪水に巻き込まれてしまい、そのまま水死してしまう人を捜索する任務を私はその時はじめて行いました。



水死体の捜索

23.3.13 10D:ボートでの救助(名取市)

正直に言えば最初は見つかってほしくないと思っていました。

水死体がどんな物かは、知識として知っていましたが、いざ本物を見るとなるとすっかりと委縮してしまいます。

これを書けばなんて根性無しと思われるかもしれませんが、実際に死体の捜索に当たってみると、死体を捜索する事に対しての恐怖感などは説明してみろと言われても、説明できるものではありません。

実際に筆者である私は、自衛隊に入るまで死体と言うものは、あくまで親族が老衰して死んだ時以外に見たことはありませんでした。

まして水死体ともなると、その捜索の重さは計り知れないものがあるのです。

逃げ遅れて不運にも死んでしまった人を探さなければいけない。

何のためにかと言えば、任務だと自衛隊員ならそう言わなければいけないかもしれないでしょうか、私は親族の為だと思っていました。

行方不明になった捜索者の名簿には、主に高齢者が記載されています。

高齢者。

一人住まいの老人が洪水の時に巻き込まれてしまうと……それを考えると、どこか気の重い話になってしまいますが、高齢者は犠牲者になりやすいのです。

それは何故か?

まず一人で住んでいる高齢者は洪水になっても直ぐに逃げ出す事は出来ません。

また水かさが増し、いつも歩きなれていた道路が沈んでしまうと、歩くのもままならなくなってしまいます。

まして杖や歩行器などを使っている高齢者になれば、逃げることはもう容易ではありません。

解りやすく言えば、服を着たままプールで歩いてみてください。

若い人でも大抵は動きにくくなり、下手をすれば溺れてしまうかもしれません。

例え足が地面に付くにしても、水かさが増している状態は、非常に歩きにくくなり、足が思うように動けなくなってしまい、一歩一歩を進めていく事が大変なのです。

まして杖や歩行器を使っている高齢者ともなると、もはや動く事もままならなくなってしまいます。

そんな家に取り残された高齢者の救助を第一として向かう際に、私達はボートを担いで洪水で沈んだ街へと入っていきます。

ここで疑問に思う方がいると思いますのでご説明を。

まずボートを担ぐと書いていますが、この記述はそのままの意味です。

ボートを担ぐと言うのは、我々自衛隊員はボートに乗ってはいけないのです。

こう書けばそんなわけはないと思われますが、水かさがまだそんなに満水に達していない時には、ボートはあくまで被災者専用として扱わなければいけません。

それにもし全員が載ってしまえば、不測の事態には対応しづらくなってしまいます。

では不測の事態とは?

まず洪水で沈んだ街は、何が沈んでいるか解りません。

また穴が空いていることがあります。

穴とは……地盤沈下云々ではなく、洪水によって下水道のマンホールが外れ、落とし穴の如くに洪水の街を歩くには、足元もとい穴に気を付けていかなければいけませんし、また沈んでいるものには……・もしかしたら遺体があるかもしれないので、それを確認するには歩くしかないのです。

そして洪水で沈んだ街には必ず何かが沈んでいます。

それを念頭に進んでいいかないと、足元をすくわれてしまいます。

洪水の街で足元をすくわれると言う事は、大変危険な事なのです。

足元をすくわれる事は、要約すれば転倒すると言う事です。

洪水の街で転倒すると言う事は……水死を意味しています。

こう書けば大げさとも言われますが、実際は大げさな事ではなく、本当に危険なのです。

考えてみてください。

もしあなたが服を着こんだまま、水の中で転んでしまったら、どうなるのか?

大抵の人は大慌てで、水中で呼吸を乱してしまいます。

しかも水中もとい洪水の街中で転倒してしまえば、すぐに立つことは出来ません。

服は水を吸い重くなり、レインコートや雨衣ですらも重くなり、立ち上がりが容易ではありません。

水に捕らえられると例えがある程に、水中での転倒は危険なのです。

では滑らないように歩けば大丈夫と、そう言うわけにもいきません。

洪水で沈んだ街の大半は、地面がぬかるんでいます。

特に土砂崩れなどあった際の洪水は、その泥濘はさらにひどくなっています。

よく災害時のテレビのニュースでは自衛隊員が洪水の街中をボートを引っ張りながら、容易に歩いているように見えますが、実際はそんなに容易ではありません。

足元の泥濘は勿論、障害物なども沈んでいます。

自転車や原付にゴミ箱や看板にその他もろもろと沈んでいます。

しかも大抵洪水に沈んだ街の水は茶色く濁っています。

下は見えず、どこに何があるのか解らずに、歩く際にはすり足で歩いたほうが良い程に、自分が歩く先に何があるのかがわからないのです。

また地面だけではなく、歩いている水面にも気を付けなければいけません。

進んでいる際にも流れついてくるものがあります。

そうそれは、どこかの家の家具だったのか、タンスや椅子にテーブルなど、信じられないものが流れてきます。

ただ流れるだけなら危険性は無いのですが、時折洪水で沈んだ街に波が発生する時があります。

何故波が発生するのか?

それは自衛隊やレスキュー隊の救助用のヘリが引き起こす風によって生まれてしまう波や、また振りだした雨で水かさが増した際などに、街中で波が発生しやすくなり、その波に乗って家具や破片などが流れてくる事があります。

それによくテレビの災害ニュースではそう言う場面を流してはいませんが、実際に洪水で沈んだ街に行くと、色々なものがプカプカと浮かんでいるものです。

そう色々なモノが浮かんでいます……筆者が見たもの……今もトラウマになっているのは、どこかの家のペットの死骸でした。

昔はペットの死骸は見落としてもよかったのですが、最近ではそれらも回収して被災地の遺体安置所に持って行かなければいけないみたいで、筆者の際も回収していました。

洪水で沈んだ街を歩んでいく中で、遺体は結果として見つかりませんでしたが、普段誰もが気軽に歩いているだろう街が、茶色い水の中に沈み、異様となった街中を進んだ記憶は今も鮮明に残っています。

 - 体験談, 災害派遣






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