mos教育・陸士特技課程初級対戦車検定試験の思い出
2016/12/12
自衛隊員の訓練課程の中では、時折Mos(モス)検定が存在しています。
その前にMos(モス)とは(以下モスと表記します)何かと、疑問符を浮かべる方がいるかもしれません。
解りやすく言えば自衛隊内の資格と考えたほうが解りやすいかも知れません。
元々モスとは、その原型は米軍の軍事職業専門コードである「Military Occupational Spesiality」から来ています。
要約すれば「特技区分」ですね。
日本語訳すればわかりやすいかも知れませんが、特技とは自衛隊内の、隊員なら絶対に習得しなければいけない能力である、「射撃」、「格闘」、「無線」などを始めとする基本的な特技として挙げられるそれらをモスと言います。
具体的なモスでは、「陸士特技課程初級軽火器、格闘指導官課程、陸士特技課程初級部隊通信」などになります。
ただこのモス教育。
新隊員入隊教育課程の開始直後から始まっていると言っても過言でもありません。
まず、新隊員──入りたてのジャージ自衛官候補生が最初に学ぶ教育課程の中に、ベットメイクに整理整頓及び戦闘服と作業服のアイロンがけに半長靴磨きに、階級と名札の縫い付け裁縫に床の掃除とポリッシャー(床を磨く清掃機械)など、自衛隊員なら当たり前の技能もモスの一つと言っても良いでしょう。
ちなみに巷の噂ではモスを持っていたらモスバーガーが、無料で食べさせてくれると言う都市伝説があるみたいですが、私と同期も班長からそんな事を言われ、本当かどうか同期が試してみましたが、店員に笑われたとの結果を教えてくれました。
とにもかくにも、そのモスを得るための検定が存在しています。
検定・・要するに試験が存在しています。
上記のモスにも当然に試験があり、合格点がもらえなければ手痛い目に合う(要は指導と自衛隊名物台風など)事になり、たかが掃除と裁縫と片づけと侮る事なくに、自衛隊員の基礎が刷り込まれていくのです。
そして小銃のモスを受け、ナンバー中隊配属になり、小隊配属になる際に、その適性を審査され、それに見合った小隊へ配属されていきます。
部隊配属後対戦車班へ
普通科で後期教育を受けたからといってみんながみんな小銃小隊へ配属されるわけではなく、対戦車火器を扱う部隊へ配属されることがあります。
私は小銃小隊対戦車班に所属し、そこで84mm無反動砲こと(ハチヨン)の射手と副砲手及び110mm 個人携帯対戦車弾(通称LAM──ラム)の携帯装備射手と、87式対戦車誘導弾(通称MAT──マット)や01式軽対戦車誘導弾の組み立て作業の補助要員などしていました。
その際にも必ずその適性の為のモス試験がありました。
まず、モス試験はどの様に受けるのかと疑問符を浮かべてしまう方がいると思います。
大抵の人は試験会場を思い浮かべて、鉛筆と消しゴムに試験用紙などを想像し、合格点に満たなければ再試験などを想像してしまうかもしれませんが、そんな格式ばったモノではなく、実戦さながらの訓練もとい演練で行われます。
場所は演習場。詳しくはどこの演習場であるかは書けませんが、その演習場内で大抵のモス訓練は行われます。
無論、実弾は使いません。あくまで演練。
つまりその使用する武器をちゃんと使用できるのかと、その使用時の動作がしっかりと、身体に刻み込まれているのかを確認する為の試験なのです。
武器を使う事が法律的に許された自衛隊。
それら兵器を使う際に必ず知っておかなければいけないのが、その使用する武器の諸元は勿論の事、それを使用するにあたって、組み立て、作動不良があればすぐに直す事が容易に出来き、トラブルもなくにそれを使えれるように『当たり前』にする事が、モス試験の意味なのです。
たとえ百に跳び、千に跳ぶ知識を知っていても、それを使用するにあたって、組み立て、使用するとなど、当たり前の動作をちゃんと行えるかが重要であり、その兵器の諸元を知識として知っていても、動作が成ってなければ、その兵器に携わる事が出来ないのです。
対戦車兵器の動作手順
さて動作とはいかなるものかと考える方が出てくると思います。
動作とは、使用兵器の正しい使い方。
その事を指します。
解りやすく言えば、教習所で免許を取る際の安全確認や乗り込んだ時のエンジンの付け方や運転方法と同じだと言った方が解りやすいと思います。
例えば、私が使用した最初の対戦車兵器こと84mm無反動砲の使用方法の演練をざっと書いてみます。
まず、撃つ際に射撃姿勢を取ります。
立撃ちの時の姿勢は重さ実に14kgもあるそれを抱え、挙上し、体勢を崩さぬまま、両脚をしっかりと地面に着け、股を開いて腰を落として構えます。
副砲手が傍に待機し、掛け声を発します。
副砲手。
「ハチヨン、射撃準備! 後方安全確認!」
射手。
「ハチヨン射撃準備、降下安全装置、後方安全確認!」
安全装置をかけます。
副砲手が安全装置を指さし確認後、
「安全装置良し! 砲口薬室確認」
と、歓呼応答し、
「砲口薬室確認!」
と、射手も応答し、副砲手が後部のレイバーを操作し、薬室と砲口に異物が無いことを目視確認します。
当然これも大きな声で、
「砲口薬室良し、照明弾装填実施!」
「砲口薬室良し、照明弾装填実施!」
と、射手も同じように応答し、その後に副砲手が照明弾をハチヨンに装填させ、後部の機関を操作し、砲口と薬室を閉鎖し、
「完全閉鎖、装填、安全装置、後方安全確認、射撃準備良し!」
副砲手と射手が歓呼応答し、
「完全閉鎖、装填、安全装置、後方安全確認、射撃準備良し!」
と、しつこいようですが、後方の安全を徹底に確認した後(注意・副砲手は絶対に後方に立たずに、射手の隣にいるのが定位置です)、副砲手が射手の頭部のテッパチを叩き、合図が入ります。
そして、ついに射撃です。
この際、立撃ち射撃の姿勢の時は、副砲手が射手の身体を正面から支えるように、射手の腰をしっかりと支えます。
まるで押しているような姿勢を副砲手が取りながら、
「安全装置解除!」
射手が叫び、腰を支える副砲手も応答し、そしてついに──
「砲発射!」
射撃音と共にハチヨンの後方からバックファイヤー(自衛隊ではこれを後方爆風と言いますが、解りやすくこう記載します)が派生し、撃ち出された砲弾を確認した後、すぐに。
「降下安全装置!」
副砲手の声の後に、すぐに安全装置を掛け、
「降下安全装置良し」
射手と副砲手の掛け声の応答の後、副砲手が後方に回り、
「砲口薬室確認!」
最初と同じように砲口と薬室を目視確認後射手と共に歓呼応答し、副砲手が発射した撃空薬莢を排出し、
「薬莢排出! 砲口薬室異常なし!」
薬莢を抱えたまま、砲の後方を完全閉鎖し、
「完全閉鎖、撃ち終わり!」
射手と共に確認応答後、射撃は無事終了となります。
と、この様に書けば、大抵の人が、「バズーカ撃つ時に、そんなに叫んでバカみたい」と、言いますが、実際にこうしなければいけないのです。
武器を使用する際には、必ず安全を確保する。
私の居た駐屯地はその考えが徹底されており、後方安全確認は常に当たり前のようにしていました。
いや、しなければいけなかったのです。
もししなければ、指導が入り、連帯責任となり、ハチヨンを抱えたままのハイポートをしなければいけなくなります。
その際副砲手はラムとハチヨンの砲弾のボックスを持ち、相当の重量を背負いながら、相当な距離を走らされてしまいます。
そんな事は嫌だと、当然誰もがそう思います。
ゆえに、上記で記した動作は、必ず行わなければいけない動作もとい演練となり、それが自然と出来るように身につくまで、しっかりと身体に覚え叩き込むのです。
演練百回!
常にこの言葉があり、隊員は何度も何度も同じ動作を繰り返し、自転車の乗り方を自然と体で覚えるような感覚になるまで、身体に刻み込まなければいけません。
そうしなければいけないのが、自衛隊の常識なのです。
そしてそれら動作が当たり前のように出来てから、ようやくにモスの検定試験を受けられる人材かどうかを判断され、無事に認められれば、モス検定を受け、合格すればハチヨンのモスが手に入ります。
もし適性がないと判断されれば、小銃手としてハチヨン組の警備に回されてしまいます。
そんなモス検定試験を受ける際、すでに服装からチェック対象に入っています。
戦闘服はちゃんとアイロン掛けされ、線が入っているか?
もしくは半長靴の先っぽが綺麗か?
階級初と名札は綻びがないか?
テッパチの追い紐はしっかりと留められているのか?
そんな細かいチェックから入ります。
チャックをするのは腕に赤い腕章を付けた監督官こと曹長が行います。
指さし確認でしっかりと確認されていきますが、唐突に予期しない確認方法が監督官の個性によって発生したりします。
まず私が経験したその唐突なチェックは、手を見せろと言われ、指の爪を確認されました。
日頃から爪をちゃんと切っていたおかげで難を逃れましたが、他の隊員は、階級や名札を引っ張られる確認や、おもむろに諸元を聴いてきたりと、色々なチェックを行ってきます。
そんなチェックが終わり、ようやくモスの試験が始まります。
私が受けたハチヨンのモス試験は、以下の通りになります。
まずハチヨンの小隊メンバー5名(射手、副砲手、警戒補助2名、班長)で、実戦を想定しながら演習場内を移動し、目標射撃位置まで動きます。
その際は茂みに隠れながら移動し、急な斜面に昇り坂に悪戦苦闘しながら進んでいき、ようやくに射撃位置まで到着します。
そして前方に敵影を発見し(この時大抵が絵にかいた下手くそな戦車だったりします)、班長の命令によって伏せ撃ちか、窪みなどを探して射撃するかを決定します。
その際も監督官にチェックされ、気が緩むときはありません。
警戒補助もしっかりと周囲を警戒し、班長が射撃を伏せ撃ちと判断し、敵影に向かって砲手と副砲手がハチヨンの射撃動作を行い、模擬弾を装填し、砲を発射。
これで無事に終わりと思いきや、その際に監督官の演出が急に入ってしまい、敵の反撃を受け、警戒補助員が負傷し、彼を抱えて敵地から撤退と、容易に終わらせてはくれません。
その際、警戒補助員の持っていた小銃を副砲手が抱え、ラムと砲弾ボックスに小銃と重い装備を抱えながら、ようやくに定位置に戻り、検定が終了するのです。
無事に終わり、なんとかハチヨンのモスを手にする事が出来ましたが、これから先に対戦車のモス検定に参加する資格も手に入れたと、その時の私はまるで気づいていない阿呆でした。
検定に合格し、その資格を手にすれば、それを用意に扱うことのできる人材になると言う、事の大きさ。
つまりは戦闘員として認められ、今後その技能を有し、維持しなければいけないのです。
取って終わりではなく、取ってから始まり。
自衛隊にとってのモスとは、自衛隊である限り一生の資格なのです。

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